未完成の理想郷シャングリ・ラ


――一つの過去アンビバレンスがある。
一方では「哀」。
もう一方では「愛」。
苦しいから忘れたいのに、
大切だから忘れられない。
未来が暗く閉ざされた今、
それは私を縛る鎖と化す。
後ろに退くことも、前に進むことも、出来ない。




〜紹介文〜

2年前に隣国・サバハとの戦争に負けて以来、荒れ放題になっている国・アクシャム。17歳の少女・メレキは、行く場所も帰る場所も失い、廃れたアクシャムの街々を放浪することを余儀なくされた旅人だった。
 自分を可愛がってくれた人を亡くし、笑うことも泣くことも忘れ、命を消費するだけの毎日。孤独感に胸を支配され、絶望の淵に佇んでいたとき、メレキはふと賑やかな都市に迷い込む。
 そこは地図にない街・『シャングリ・ラ』――心に傷を負った人々が集まるという、魔女が創った幻想都市だった。行く当てのないメレキは、シャングリ・ラに来て3年になる少女・アモルの経営する小さな宿に住み込みで働くことになる。
  シャングリ・ラに満ちるのは、忘れかけていた平和な情景。ゆったりとした日々の中でメレキは人間らしさを取り戻していく。しかし、そんな毎日の中には落とされた確かな影があった。

 相次ぐ行方不明事件、殺人、そしてシャングリ・ラの破壊を望む一人の男の存在。
 交錯する感情が行き着く先にあるのは、残酷な現実か。それとも、偽りの理想郷か――

   シリアスな異世界ファンタジーです。