A tale of autumn


 涼しい風の吹く午後に
 魔女の儀式が始まった
 大きな鍋を火にかけて
 材料掻き混ぜ歌い出す

 必要なのは虫の
 清く輝く満月フルムーン
 桔梗の花に秋刀魚の尾
 月見団子にすすきの穂
 葡萄ぶどうの紫 百舌鳥もずの声
 梨の実 撫子なでしこ 熟れた柿
 楓の葉っぱに赤蜻蛉あかとんぼ

 鍋の中から立ちのぼる
 秋の香 部屋にあふれ出す
 けれども魔女にはもう一つ
 忘れちゃいけない材料モノがある
 魔女の片手に握られた
 白く綺麗な封筒は
 移り気な魔女に宛てられた
 遠き人からの恋文ラブレター
 今では終わってしまった恋
 魔女は思い出消すために
 手紙を鍋に放り込む

 ゆらりゆらりと昇った煙
 秋風にそっとさらわれて
 夏の香残る青空を
 赤い夕暮れに染め上げた
 移り気な魔女の心のように
 色をすっかり塗りかえた

 気付けば鍋は空っぽで
 くすぶる炎も消え去った
 魔女は夕焼け空仰ぎ
 にっこり笑って駆け出した

 身一つの魔女は旅に出る
 移り気な秋の空の下
 ひと秋の恋をするために


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