帰らぬ時 〜独り〜
ふらふらと足を進めてメレキが辿り着いた先は、見たことのない場所だった。
…当然だ。メレキは自分の故郷の村と、ラルゴと過ごした街以外の場所にはほとんど足を運んだことがない。
知らない場所の方が遥かに多いのだ。
長い距離を走った所為で、息が苦しい。メレキは倒れ込むように膝を着く。
雨はもうやんでいた。白み始めた空が照らした水たまりに、メレキの顔が映る。
ラルゴの形見のイヤリングを付け、ラルゴの血に汚れたその顔は、確かに自分なのに、知らない誰かが映っているように思えて仕方なかった。
家族を、失くした。ラルゴを、亡くした。
――もう、この世界にメレキの存在を知る者はいない。
生き続けようと、何処かで野垂れ死のうと、それに気が付いてくれる者はもう何処にもいないのだ。
今まで感じたことのない絶望的な孤独感が、メレキを襲う。
自分の存在を知るのは、自分だけ。
これほど哀しいことがあるだろうか?
メレキは震える足に力を込め、立ち上がる。
生きる理由と同じくらい、死ぬ理由もない。それならば、とにかく彷徨うしかない。
沈んだ眼差しを真っ直ぐ前に向け、メレキは足を踏み出す。
涙は、いつの間にか枯れていた。
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