帰らぬ時 〜後遺症〜


街を歩いているとき、家族やラルゴに似た人を見る度に振り返ってしまう自分がいた。
 やむを得ず戦場の跡を通ることになったとき、人々の痛ましい遺体を見る度に吐いてしまう自分がいた。
 死んでしまえば楽になるかと、そう考えたこともある。 しかし食糧が何日も手に入らず、痩せていく自分の腕を見る度に、メレキはぞっとした。 誰も知らない場所で誰にも知られずに死んでしまうことが、怖くて仕方なかったのだ。 それ故に、生き延びてきた。どんなに傷つけられても、必死に。
 全てを忘れたいと願ったこともある。しかしメレキの全ては、記憶の中にしかなかった。 記憶を捨ててしまえば、からになった心は簡単に壊れてしまうはずだ。 それが怖くて、忘れられなかった。どんなに胸が軋んでも、決して。

 もしかしたら自分は、いつかまた幸せな日常に戻れると信じていたのかもしれない。

 ――夢は、いつまでも夢だった。




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