帰らぬ時 〜涙に濡れた夜〜


 ラルゴに拾われて、最初の一ヶ月はほとんど毎日。しばらく経ってからもメレキは時々、真夜中に泣き出してしまうことがあった。
 もう会えないであろう家族のことが、恋しくて仕方なかったのだ。村の長閑のどかな風景を思い出すだけで、胸が締め付けられる思いがしたのだ。
 ラルゴの仕事は夕方から夜中までだったから、家に帰ってきたと同時に、ラルゴが泣いているメレキを発見することもあった。
また、仕事から帰って眠りについたばかりのラルゴを、メレキが泣き声で起こしてしまうこともあった。
 どちらにしても、疲れているラルゴからすれば迷惑なことだったと思う。それなのに彼は、メレキを叱りつけるようなことはしなかった。
 メレキが泣いているのに気が付くと、ラルゴは必ず台所に行き、メレキに飲み物を持ってきた。それは、夏であればよく冷えたレモネードであり、冬であれば温かいココアだった。
 差し出された飲み物を、メレキは無言で受け取り口に運ぶ。時々しゃくりあげる所為で飲むのに手間取っても、飲み終わるまでラルゴはメレキの側に佇んでいた。
 やがて飲み物がなくなると、ラルゴは空の容器を受け取り、メレキに布団をかけ直してくれる。その後で自分もベッドに戻っていく。
 この間、言葉が交わされたことはない。
 それなのにメレキは安堵感に包まれ、温もりに身を任せて再び深い眠りにつくことが出来るのであった。
 ――懐かしい、彼との思い出の一つだ。


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