戦場の踊り子


 新たな騎士の 叙任式
 若い王様に 頭垂れ
 鋭利な剣を 授かった
 命取る剣 死の刃
 頭を上げた その騎士は
 重い兜を 地に置いて
 若い王様に 微笑んだ
 あどけない顔で 微笑んだ
 
 それは少女で 騎士でなく
 街で人気の 踊り子で
 叙任の式を 見たいから
 冷たい鎧に 身を隠し
 こっそり城に やって来た
 戸惑う王を 差し置いて
 少女は鎧を 脱ぎ捨てる
 
 露わになるは 美しき
 花の香のする 舞台衣装
 少女は王に 一礼し
 剣を片手に 足を踏み
 春風のように 踊り出す
 まずは基本の 一刀流
 両手に持って 二刀流
 頭に載せて 三等流
 くるくる華麗に 回っては
 王を驚かせるばかり

 妖精のような 踊り子は
 城を飛び出し 戦場へ
 両手に持った その剣で
 騎士たちの剣を 振り落とす
 落とされた剣は 若葉色
 無数の葉っぱに 包まれて
 人の命を 取ることも
 切ることさえも もう出来ず

 戦場に立つ 騎士たちは
 可憐な踊り子 追いかけた
 戦の最中に 目障りだ
 互いの王を 守るため
 邪魔な踊り子 消さないと

 自分を見る目の 冷たさに
 気付いて気付かぬふりをする
 踊る自分が 大好きで
 泣いてる自分は大嫌い
 客の笑顔が 大好きで
 騎士の睨みは大嫌い

 だから踊り子は 止まらない

 一人の騎士が 矢をつがえ
 踊り子狙って 弓を引く
 風を切り矢は 一直線
 踊り子の胸を貫いた
 
 倒れる姿は 枯れた幹
 けれども立つのは まだ若木
 踊り子の影は 消え去って 
 オリーブの木が 揺れていた
  

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